<要旨>
感染症や大規模な自然災害といった事態に対し政府は早急に様々な政策を講じる必要がある.地域の実情や人々のニーズを把握し政策に反映させることが望ましいが,大規模な社会調査を行うことは困難である.ここで,Web上には日々記事が投稿され,人々が記事に対してコメントをしている実態に着目すると,ニュースサイトのコメントから人々の関心事を把握できる可能性がある.しかし,コメント数は膨大であり,さらにその内容や質は様々であることから,これらの背後にある社会的関心を見つけることは容易ではない.そこで本研究では,コメントに対する人々の賛同に着目し,賛同を考慮したうえで大量のコメントから特徴的な関心を抽出することを試みる.自然言語処理の手法であるBERTを用いて,2020年6月から2021年5月末までの新型コロナウイルス感染症に関する記事に寄せられたコメントで実証する.
<要旨>
まちづくりワークショップ等の集団討議では,地域住民が与えられたテーマについて話し 合いアイデアを提案することが多い.しかしそこには,テーマに関する知識の差や時間的な 制約がある.また,熟練のファシリテーターが限られていることから,被験者のみで質の高 いアイデアをまとめることが難しい状況である.ChatGPT などの生成 AI は,アイデア発想 の支援における有用なツールとして期待されている.一方で,使い方を誤れば生成 AI に過 度に依存するアイデアとなる危険性もある.そのため,まずは生成 AI が集団討議に与える 影響を明らかにする必要がある.そこで本研究では,被験者の発言の類似性に着目し, ChatGPT の使用の有無と討議のプロセスの関係,さらに結論として得られたアイデアの関係 を分析する.ここで,討議実験から得られた議事録とアイデアを対象として,自然言語処理 の手法である BERT の事前学習モデルを用いた検証を行う.
<要旨>
気候変動の影響により,短時間に極端な降雪量が生じる可能性が高くなっている.このた め,日常生活を維持するためには除雪が重要であることが改めて認識されている.しかし, 建設業の人手不足に伴って除雪の体制は脆弱になっており,すべての道路を一律に除雪する ことは困難になっている.この背景のもと,大雪を想定して,今後に見込まれる降雪量に応 じてどの道路を除雪し,どの道路の除雪を先送りするのかを示した行動指針を事前に決めて おくことが有効である.そこで本研究では,混合整数計画法を用いて除雪車の運行を再現す る数理計画モデルを開発し,そこで得られる結果を用いて除雪の行動指針を策定する方法を 提案する.その上で,同じ地域であっても空間的な降雪分布には複数のパターンが存在しう ることに着目し,実際の地域を対象としてこれらのパターンを特定するとともに,それぞれ のパターンのもとでの行動指針の策定を試みる.
<要旨>
タクシーは少ない需要に対応できる移動手段であるため,中山間地域などの人口が少ない 地域における公共交通の役割が期待されている.しかし,旅客の数が少ないと自ずと得られ る利益も小さいため,タクシー事業の持続可能性は脆弱である.そこで,旅客の運送のみな らず,企業への運転手の派遣や買い物の代行といった兼業を実施することで,本業の収入を 補完することが考えられる.ただし,兼業の実施に当たっては本業の労働力の一部を兼業に 割り当てるため,本業の収入が減る可能性がある.したがって,事業者はこの点を踏まえて, 兼業の実行可能性を判断する必要がある.そこで本研究では,混合整数計画法を用いて兼業 の実行可能性を評価する手法を開発するとともに,実際のタクシーの日報データを用いて兼 業の実行可能性を実証的に評価する.具体的には,教習所の送迎業務,学校給食の運送業務 を兼業で実施した場合を想定して評価を試みる.
<要旨>
わが国では効率的なインフラの維持管理が求められている.その実現には,廃止を含めた インフラの再編が不可欠であり,橋梁についても同様である.橋梁は道路ネットワークの一 部を構成しており,個々の橋梁の重要性はそれ以外のどの橋梁が維持されているのかに依存 するため,個々の重要性の評価のみで再編を計画することはできない.加えて,行政機関や 商店,病院などの生活関連施設は人口減少等に伴って配置が変わりうるため,現在の重要性 の評価のみで再編を計画することもできない.そこで本研究では,橋梁を群として着目する とともに,将来における生活関連施設の配置を想定した再編の評価手法を提案する.具体的 には,橋梁群の廃止に伴う施設への交通の影響を簡易に再現する数理計画モデルを開発する とともに,いくつかの影響の観点から再編案を包絡分析法に基づいて評価するアプローチを 構築する.その上で,施設の再配置を想定しつつ,有効な案を選定する手法を提案する.
<要旨>
生活必需品の買い物が困難な人々である買い物弱者の存在が社会的に認識されてお り,公共交通が不便である中山間地域には多くの買い物弱者がいると考えられている. しかし,生活必需品は世帯単位で購入するため,個人単位で買い物の困難性を判別する ことは必ずしも適切ではない.すなわち,個人単位での判別に基づくと,買い物支援策 の需要を過大に評価し,対策の意思決定を誤る懸念がある.そこで本研究では,中山間 地域を対象として,買い物が困難になるリスクを示す「脆弱性指標」という世帯単位の 評価指標を提案し,従来の買い物弱者の判別とどれほどの違いが生じるのかを明らかに する.その上で,潜在クラス分析と回帰木分析を活用し,脆弱性の程度に応じて買い物 行動にどのような違いが生じるのかを見出すとともに,どれほどの脆弱性指標があれば 移動販売などの買い物支援策が必要とされるのかについて定量的に明らかにする.
中山間地域に終えるタクシー運転手数の推計方法
:小野 陽己
<要旨>
中山間地域では,旅客の減少に伴い,路線バスからタクシー事業への転換を検討する 自治体が増えている.しかし,タクシー事業者の運転手が減少してる中,タクシー事業 で旅客の需要に応じうるかは定かではないため,転換に踏み切れない場合が少なくない. そこれに対して,従来,数理計画モデルを用いた手法が存在するが,必ずしも実務的に 容易に扱える方法でない.そこで本研究では,判別分析を用いて中山間地域におけるタ クシー事業の供給に必要な運転手数を簡易に推計するための方法を提案する.
情報行動と共助活動の協力意向 に関する分析
:折谷 拓馬
<要旨>
中山間地域では生活サービスの縮小や撤退により、住民による共助活動を行う必要性が高 まっている.そのため,共助活動への裾野を広げることが重要だとされている.一方で,住 民の共助活動への協力意向は様々であり,それに伴い地域の情報を入手する方法も住民ごと に多様化している.そのため,住民に共助活動を働きかける際の有効な情報発信手段につい ては明らかにされていない.そこで,項目応答理論およびアソシエーション分析を用いて, 共助活動への協力意向と情報を入手する方法の関係を明らかにし,地域情報を発信する際に 役立てる.
集合的な評価に基づいた 道路防災対策の優先箇所の選定方法
:齋 幸佑
<要旨>
近年の異常気象により,世界各国で豪雨や台風が頻発し,それに伴う洪水や土砂災害が多 発している.被災地では道路ネットワークの分断が生じ,生活への影響の長期化が見られ る.道路管理者にとって、限られた予算内で戦略的に防災対策を進めることが重要な課題と なっている.本研究では個々の路線の社会的な重要性を評価し,ネットワーク全体での影響 を考慮して防災対策を講じるために,集合的な評価に基づく手法を提案する.目的地までの 移動時間に着目しつつ,数理計画モデルを用いてアクセス性を再現し,社会への影響を定量 的に評価した上で,総合評価手法を用いて対策箇所を選定する.その上で,仮想地域および 鳥取県佐治町において数値実験を行い,提案手法の有効性を確認する.
共助交通の運営体制の評価に関する研究
:内藤 陽太
<要旨>
中山間地域や過疎地域では,様々な公共交通サービスにおいて旅客や運転手の減少といった問 題が生じており,交通事業者がサービスの撤退を余儀なくされている.この状況を打開する策と して,地域の住民が運転手を担うことで事業を運営する「共助交通」の導入が進んでいる.共助 交通の導入にあたり,運転手の配置や勤務時間において特有の事情があるため、これらを考慮し た運営体制を一から構築する必要がある.そこで本研究では,運転手の様々な配置・勤務時間を 想定した車両の運行を再現する数理計画モデルを整数計画法に基づいて構築する.そして,この モデルの結果から,どのような運営体制が有効かをいくつかの観点から客観的に導出しうる方法 論を提案する.その上で,実際にタクシー事業者が撤退した地域の乗降データを用いて,共助交 通の運営体制について実証的に考察する.
食料品店の閉店に伴う 買い物行動の変化に関する分析
:森 星斗
<要旨>
中山間地域では人口減少や高齢化の進行に伴い,住民の居住地に近接する食料品店の閉店 が相次ぎ,今後も多く顕在化することが懸念される.それに対し自治体は,閉店による影響 を最小化する役割が求められ,閉店の計画が分かった時点で即座に対応することが望ましい. その際,住民の代替的な行動を把握できれば,必要な対策を特定する上で有用である.しか し,住民の買い物行動は住民の属性や地理的な環境によって異なると考えられ,これらの要 因も踏まえて閉店後の行動を把握することは必ずしも容易ではない.そこで本研究では,中 山間地域における買い物行動に関するアンケートデータを用いて,買い物行動をクラスター 分析と名義ロジスティック回帰モデルによって推計したうえで,店舗が閉店した際の具体的 な影響を集落単位で集計し,定量的に評価する.
タクシーと共助交通の 一体的な運営管理の有効性分析
:山本 尭大
<要旨>
中山間地域では公共交通の運転手不足が課題となっている.そこで,共助交通の導入 を検討する地域が増加しているが,既存のタクシー事業者からは旅客の奪い合いによる 利益の減少を懸念し,理解が得られないという課題がある.一方で,タクシー事業者が 行っている運送にも非効率なものが存在するため,そのような運送のみをタクシー事業 者が共助交通に割り振る一体的な運営管理体制が確立できれば,旅客の奪い合いは発生 せずタクシー事業者の収益改善にもつながる.そこで本研究では,先述の運営体制のも とでのタクシー事業と共助交通の車両運行を再現する数理モデルを構築する.さらに, 実際の地域に適用し,営業所の立地がタクシー事業者の利益に及ぼす影響を定量的に明 らかにするとともに,影響を及ぼす要因についても回帰分析を用いて明らかにする.