中山間地域における乗合タクシーの運用方法とその評価に関する一考察ー効率性と供給可能の視点からー
:山本 雄大
<要旨>
乗合タクシーは利用者の乗車時刻や経路を調整することで,少人数の運転手で多くの利用者を運送できるという利点がある.一方で,利用者にとっては,希望する時刻からの乖離や余分な所要時間という不便が生じる.このため,事業者は,どれほどの余分な所要時間ならびに希望する時刻からの乖離を利用者に許容してもらうかという運用方法を適切に定める必要があるが,その設定は必ずしも容易ではない.そこで本研究ではこの課題に対して以下の二つの方法を提案する.第一に,所与の運転手の人数のもとで,利用者の不便と事業者の利点を効率性の観点でバランスさせる運用方法を特定する手法を,数理計画法と包絡分析法を組み合わせて構築する.第二に,利用者の乗降時刻や乗降場所のパターンに着目し,ネットワーク分析を活用して所与の運転手のもとで供給可能な運用方法を近似的に求める手法を構築する.これらの方法により,効率性と供給可能性の観点から,乗合タクシーの運用方法を客観的に設定する枠組みを提供する.
合意形成の観点に基づいた公共事業の整備優先順位の評価に関する研究
:石黒 航平
<要旨>
人々の生活を支えるために,道路整備や防災対策を含む多様な公共事業が行われている.しかし近年,事業者の財政的制約が厳しさを増しており,個々の事業を評価し優先順位を決定した上で,順位が高い事業を選択して整備する必要性が高まっている.現在,自治体が実施する比較的小規模な公共事業では,事業者が評価指標ごとに重みを設定し,それに基づいて優先順位を算出する方法が多く採用されている.しかし,評価指標の重みが地域の意向を直接反映していないため,得られた優先順位に対する地域の納得感が得られず,合意を形成しにくいという課題がある.そこで本研究ではこの課題を解決するために,包絡分析法と社会選択理論に基づく集約ルールを組み合わせ,公共事業の整備優先順位を決定する新たな方法を提案する.その上で,数値実験
を通じてその特徴を明らかにするとともに,実際の公共事業に適用してその有効性を検証する.
地域住民の参加要因に基づく共助交通の持続可能性の評価
:伊藤 優希
<要旨>
近年,利用者の減少や運転手の不足などから公共交通の維持,確保が難しくなる中,共助交通の導入を検討する地域が増加している.持続可能な共助交通の運用を行うためには,十分な数の運転手を継続的に確保する必要があるが,将来の利用者に対してどの程度の運転手を確保すればよいのかは明確でない.そこで本研究では,鳥取県智頭町において共助交通の運転手および町民を対象にアンケート調査を行うことで運転手に対する参加要因を明らかに
し,将来の運転手数と利用者数を推計することで共助交通の持続可能性を評価する.
余暇活動と心理的欲求に着目したまちづくり活動への参加意向の分析
:小原 藍生
<要旨>
人口減少や高齢化に伴い,住民によるまちづくり活動の必要性が高まっているが,その担い手は不足しており,今後も減少が予想される.まちづくり活動を持続させるためには,担い手の確保に向けた新たなアプローチが求められている.本研究では,住民の心理的欲求に着目し,余暇活動とまちづくり活動への参加意向との関係を共分散構造分析により明らかにした.また,余暇活動を通じて住民の心理的欲求を可視化することで,継続的なまちづくり
活動の担い手確保に寄与する可能性を検討した.
被災による機能損失に着目した道路ネットワークの復旧計画に関する研究
:岸田 一馬
<要旨>
中山間地域は,地形や自然条件の影響を受けやすく,土砂災害や洪水などに対する脆弱性が高い地域である.特に災害発生時には,道路や橋梁の損壊により,交通の迂回や地域の孤立が生じる可能性が高く,住民生活や緊急支援の遅れに繋がる.このような被災による機能損失は,医療,物流,避難活動など地域全体の活動に大きな影響を及ぼす.そこで,機能損失を最小限に抑えるためには,道路ネットワークの早期復旧を目指した計画が不可欠である.本研究では個々の路線の社会的な重要性を評価し,ネットワーク全体での影響を考慮して復旧計画を立案するために,レジリエンスの定量評価に基づく手法を提案する.目的地までの移動距離に着目しつつ,数理計画モデルを用いてアクセス性を再現し,社会への影響を定量的に評価した上で,レジリエンスの定量評価に基づき復旧箇所を求める.その上で,仮想地域および鳥取県佐治町において数値実験を行い,提案手法の有効性を確認する.
タクシー事業との協働における共助交通の負担に関する定量分析
:竹田 光希
<要旨>
中山間地域では,タクシー事業者の運転手不足が深刻化しており,事業者が単独で旅客の需要を満たすことが困難な場合がある.この課題を解決するための方策の一つとして,地域住民が主体となる公共交通(以下,「共助交通」と呼ぶ)との協働が考えられる.しかし,共助交通も十分な人的リソースを確保できるとは限らない.このため,協働に必要な運転手の人数や労働時間といった負担が不明瞭な場合,共助交通が事業者からの協働の要請を受け入れることが難しくなる可能性がある.そこで本研究では,協働した場合に共助交通に生じる負担を算出する数理計画モデルを構築する.また,このモデルを活用しつつ,負担を最小化するために運転手をどのように地域に配置すべきかを評価する方法もあわせて提案する.さらに,この方法を実際の地域に適用し,負担の定量分析を行うことで,タクシー事業者にとってどのような要請が適切かを明らかにする.
災害時の脆弱性に基づく人々の分類と影響特性に関する分析
:中尾 尚輝
<要旨>
自然災害は人々の生活に影響を与えるが,その影響の大きさは個人によって異なる.また,すぐに日常生活に戻る人がいる一方で,長期にわたって災害の影響を受け続ける脆弱な人々もいると考えられる.しかし,実際にどのような属性の人々が脆弱であり,どのような不満を抱えているのかは明らかではない.そこで本研究では,新型コロナウイルス感染症を事例とし,災害時に脆弱な人々の属性を特定するとともに,その不満を分析することで人々が受ける影響の特性を明
らかにする.